第196篇 楚王将出张子(二十五)
出处:战国策·楚策一
📜 原文(文言文)
楚王将出张子,恐其败己也,而失秦也,计未定。陈轸曰:“王何不因臣为阴交于秦乎?请为王使秦,必见信于秦王也。臣请因张仪以请于秦,愿王之听之也。”楚王曰:“诺。”陈轸曰:“然则王请先出张子,而后臣行。”楚王乃出张子。张子之秦,秦王喜,而陈轸至,秦王问曰:“子去楚而归秦,将何以教寡人?”陈轸曰:“臣闻之,有爱于主者,臣也;有忠于主者,臣也。今臣去楚,而王不以为臣,臣窃恐王之弃臣也。且臣闻楚王之谋,欲因张仪以事秦,而王不知也。今王出张子,楚王必以张子为质于秦,而阴与秦合,以图齐。齐恐,必求于楚,楚必不与,则齐楚之交绝,而秦得以为利矣。王不如因臣,使楚王出张子,而臣得归楚,以观楚之变。楚王若不出张子,则臣请留秦以事王;若出张子,则楚必信臣,而臣得返,因以阴结楚,而王可图也。”秦王曰:“善。”乃止张子,而使陈轸归。陈轸归楚,楚王果出张子,而陈轸遂为楚王用,以固齐楚之交,而秦卒不能害。
📖 白话文翻译
楚王、張儀を秦に帰さんと欲す。然れども其の帰国後、楚の事を敗り、以て秦の支持を失わんことを恐れ、是に由り猶豫して決せず。陳軫、楚王に謂いて曰く「大王何ぞ臣をして陰に秦と交結せしめざるや。臣、請う大王の為に秦に使せん。必ず秦王の信を得ん。臣、張儀に因りて秦に請わんと欲す。願わくは大王、臣の計に聽きたまえ。」楚王曰く「善し。」陳軫又曰く「然らば則ち大王、先ず張儀を放ちて歸らしめ、然る後に臣、動かん。」楚王是に於いて張儀を放つ。張儀、秦に至れば、秦王悦ぶ。此の時、陳軫も亦た至る。秦王、問いて曰く「子、楚を去りて秦に歸る。何か寡人を教うること有るか。」陳軫曰く「臣、聞く、君に愛せらるる者は臣と為り、君に忠なる者は臣と為ると。今、臣、楚を去るも、大王、臣を臣と為さず。臣、私かに大王の臣を棄てんことを恐る。且つ臣、聞く、楚王の計は、張儀を用いて秦に事えんと欲す。然れども大王、未だ知らざるなり。今、大王、張儀を放てば、楚王、必ず張儀を質と為して秦に留め、陰に秦と聯合し、以て齊に當たらん。齊、恐るれば、必ず楚に和を求めん。楚、必ず應ぜざるべし。是に由り齊楚の邦交斷絕し、而して秦、其の利を得ん。大王、臣に依りて楚王をして張儀を放たしめ、臣をして楚に歸らしめ、以て楚の變を觀るに如かず。若し楚王、張儀を放たざれば、則ち臣、請う秦に留まりて大王に事えん。若し張儀を放たば、則ち楚、必ず臣を信ぜん。臣、能く楚に返り、此に因りて陰に楚と交結し、而して大王、圖る可し。」秦王曰く「善し。」是に於いて張儀を留め、陳軫をして歸らしむ。陳軫、楚に歸れば、楚王、果して張儀を放つ。而して陳軫、終に楚王の為に用いられ、以て齊楚の邦交を固め、而して秦、終に楚を害すること能わず。
💡 商战启示录
陳軫のこの策は、まさに古代版「二重スパイ」と「情報非対称性」の活用を示す古典である。現代の商戦において、その核心たる知恵は「退いて進み、勢いに乗じて布石を打つ」ことにある。陳軫は自ら進んで秦へ赴くことを願い出たが、それは真に秦のためではなく、「情報の霧」を生み出し、秦王に「己を以て楚を制すべし」と誤認させることで、楚へ帰る機会を得ようとしたのである。これは商業交渉において、企業が「競合他社に鞍替えする可能性」を意図的に漏らし、相手に譲歩を迫る手法、あるいは第三者を介して虚実入り混じる市場情報を流し、競争相手の意思決定を撹乱する手法に通じる。例えば、某テクノロジー企業がサプライヤーとの交渉の際、実際には接触していない別のサプライヤーがより低い価格を提示したと内々に示唆し、既存サプライヤーに値下げを強いるのは、まさに「陳軫式」の虚勢である。さらに深く見れば、陳軫は「余地を残す」ことを知っていた。彼は秦王に「楚の変動を観察する」選択肢を提供しつつ、楚王には斉楚同盟の強化を促し、自らを多方にとって不可欠な結節点としたのである。現代の企業リーダーもまた、このような「多角的駆け引き」の思考を養うべきであり、協力と競争が併存する環境において、一方的な賭けに出ず、情報と利益の交差するネットワークを構築することで、自らをハブの位置に置くのである。ただし、この戦略は高度な信頼と精確な判断に依存しており、ひとたび情報が漏洩し、あるいは相手に見破られれば、その反動は極めて大きい。ゆえに用いる際は、陳軫のように、あらゆる歩に退路を残し、「進むも良し、退くも良し」を確保し、動的駆け引きの中で常に主導権を掌握すべきである。