定義
Customer Acquisition Cost(CAC / 顧客獲得コスト) とは、新規顧客を1人獲得するために費やしたマーケティング費用と営業費用の総額を指します。DTC・EC業界では「CPA(Cost Per Acquisition)」と呼ぶことも多く、広告費だけでなく、クリエイティブ制作費、アフィリエイト報酬、CRMツール費用、カスタマーサポートの人件費なども含めて計算するのが実態に即した考え方です。
たとえば「今月の広告費が300万円、新規獲得が1,000人」であれば、CACは3,000円です。この数字がLTV(顧客生涯価値)を下回っていれば事業は健全、逆に上回っていれば「売れば売るほど赤字」という危険な状態になります。
类比:CACは「釣り竿と餌代」
CACを釣りに例えると分かりやすいです。1匹の魚を釣るために使った竿・糸・餌・ボート代の合計がCACです。どんなに立派な魚(優良顧客)でも、餌代が魚の売値より高ければ商売になりません。逆に、安い餌でたくさん釣れれば利益が残ります。DTCブランドが「広告費をいくら使うか」ではなく「1人獲るのにいくらかかったか」を重視するのは、この釣りの原価計算と同じ発想です。
公式
CAC = 獲得にかかった総コスト ÷ 獲得した新規顧客数
具体例1:
- 広告費:¥2,400,000
- 制作費・ツール費:¥600,000
- 新規顧客数:1,200人
- CAC = (2,400,000 + 600,000) ÷ 1,200 = ¥2,500
具体例2(LTVとの比較):
- CAC:¥4,000
- LTV:¥12,000
- LTV ÷ CAC = 3.0倍(健全ラインは3倍以上が目安)
具体例3(CAC回収期間):
- 初回購入単価:¥5,000
- 粗利率:60% → 粗利¥3,000
- CAC ¥4,000の回収には2回目の購入が必要
比較表:CACと関連指標
| 指標 | 意味 | 計算式 | 理想値の目安 |
|---|---|---|---|
| CAC | 顧客1人あたりの獲得コスト | 総コスト ÷ 新規顧客数 | LTVの1/3以下 |
| CPA | 広告経由の獲得単価 | 広告費 ÷ コンバージョン数 | CACより小さめ |
| LTV | 顧客生涯価値 | 平均単価 × 購買回数 × 継続率 | CACの3倍以上 |
| ROAS | 広告費用対効果 | 売上 ÷ 広告費 × 100 | 300〜500%以上 |
| Payback Period | CAC回収期間 | CAC ÷ 月次粗利 | 12ヶ月以内 |
応用シーン
1. 広告チャネルの予算配分
Meta広告のCACが¥3,500、TikTok広告が¥2,800なら、単純計算ではTikTokが優位です。ただしLTVがMeta経由の方が高い場合、CACだけで判断するのは危険です。
2. サブスクECの解約率管理
月額¥3,000のサブスクでCAC¥9,000の場合、3ヶ月継続すれば回収できます。逆に平均継続が2ヶ月なら、CACは回収不能です。
3. インフルエンサー施策の評価
ギフティング費用¥500,000で新規顧客200人ならCAC¥2,500。通常広告のCAC¥4,000と比較して、施策の良し悪しを判断できます。
4. リピート率改善との連動
CACを下げるより、LTVを上げた方がROI改善に効くケースは多いです。購入後30日以内の2回目購入率を10%→20%に改善できれば、実質的なCAC負担は半減します。
よくある誤解
❌ 誤解1:CACは広告費だけで計算する
→ 実際は制作費、ツール月額、人件費、返品・返金コストも含めるべきです。広告費だけだと実態より2〜3割低く出ます。
❌ 誤解2:CACが低いほど良い
→ 安いCACで集まる顧客はLTVも低い傾向があります。CAC¥1,000・LTV¥1,500より、CAC¥5,000・LTV¥20,000の方が圧倒的に儲かります。
❌ 誤解3:全チャネルを合算して評価する
→ チャネル別・キャンペーン別に分解しないと、どの施策が効いているか分かりません。最低でも流入元別のCACを月次で追いましょう。
❌ 誤解4:初回購入だけで回収しようとする
→ DTCの本質はリピートです。初回でCACを回収しようとすると価格が高騰し、競合に負けます。
❌ 誤解5:CACは一度下げれば安定的に維持できる
→ 季節性、競合の入札強化、クリエイティブ疲弊でCACは常に変動します。週次モニタリングが必須です。
関連用語
- LTV(Life Time Value / 顧客生涯価値):CACとセットで見る最重要指標
- CPA(Cost Per Acquisition):広告視点での獲得単価
- ROAS(Return On Ad Spend):広告費用対効果
- MER(Marketing Efficiency Ratio):全社売上÷全広告費
- AOV(Average Order Value):平均注文単価
- Payback Period:CAC回収期間
- Blended CAC:全チャネル合算のCAC
- Paid CAC:有料チャネル限定のCAC
CACは「単独で見ても意味がない」指標です。必ずLTV・粗利率・継続率とセットで追い、チャネル別・コホート別に分解することで、初めてDTCの収益構造が見えてきます。